ゆーたんです♪
アメリカの電気通信大手、T(AT&T)の銘柄分析です♪
AT&Tってどんな会社?
AT&Tは、アメリカのテキサス州ダラスに本社を置き、電気通信事業を展開する企業です。
主な事業は、国内での電気通信事業ですが、2015年に有料テレビサービスのディレクTV、次いで18年に総合メディア企業のタイム・ワーナーを買収するなどして、エンターテイメント・メディア事業にも進出しました。
電気通信事業とのシナジー効果を狙いましたが、思うような効果が出ず、負債も積み上がりました。21年にはディレクTV、22年にはタイム・ワーナーを切り離すこととなり、再び電気通信事業に回帰しています。
(Image By:Adobe Stock)
もともとは、電話の発明者とされるベルが、1877年に設立した会社(ベル電話会社)を母体としており、1885年に長距離電話事業を展開する会社として発足しました。
以後、アメリカの電話市場で圧倒的なシェアを誇ってきましたが、そのシェアの高さから、反トラスト法(日本でいう独占禁止法)に反するとしてたびたび司法省から訴訟を起こされていました。
結果的に、AT&Tは、1984年1月に長距離電話事業を担うAT&Tと、各地域での電話事業を担う7社の計8社に分割されました。しかし、この8社は合併・買収を経て、現在はVerizon(ベライゾン)、AT&Tの2社にほぼ集約されています。
なお、1984年に分割されたAT&T本体は、2005年に元々地域電話会社の一つで、他の地域電話会社と合併して巨大化したSBC(旧:Southwestern Bell)に買収されることとなりました。しかし、SBCが会社名として、AT&Tを採用したことで、現在に至っています。
AT&Tの基本情報
セクター | 通信サービス(電気通信) |
株価 | 18.81 |
2023年予想PER | 7.7 |
EPS成長率(2018〜24)※22、23年は予想 | -5.5% |
配当 | $1.11(四半期あたり$0.2775) |
配当利回り | 5.85% |
連続増配 | なし |
S&P格付け | BBB |
AT&Tの業績・財務
※グラフはIRデータより作成
収益、営業利益、純利益

収益は2013年頃まで横ばいで推移していましたが、ディレクTVやタイム・ワーナーなどの積極的な買収策もあって、2016年以降、1,500億ドルを超える水準で推移していました。
しかし、再び電気通信事業に軸足を移すこととなったため、22年の収益は1,100億ドル台での着地となりそうです。
営業利益率はここ数年、10%台半ばで安定して推移しています。2020年の営業利益率が大きく減少しているのは、有料テレビサービスなどビデオ事業の減損があったためです。
AT&Tの部門別収益(2021年)

AT&Tは、事業領域を大きく3つに分類しています。なお、コーポレート・その他の割合が大きくなっているのは、2021年7月に分離したディレクTVに関する事業の収益が含まれているためです。
コミュニケーションズ
収益の3分の2を占めるAT&Tの主力事業です。モビリティ(アメリカでの携帯電話事業など)、ビジネス・ワイヤライン(法人向けのサポートサービス、旧来の音声通信サービスなど)、コンシューマー・ワイヤライン(高速インターネット、旧来の音声通信サービス)で構成されています。後で詳しく見ていきます。
ワーナーメディア
AT&Tが2018年に買収を完了した、総合メディア・エンターテイメント企業であるワーナー・メディア社の事業です。
AT&Tの買収により、会社名がタイム・ワーナーから変わりました。映画事業などを展開するワーナーブラザーズ(WB)、ニュースメディアCNN、動画配信サービス HBO Maxなどのコンテンツで知られています。
この部門は、2022年4月にAT&Tより独立、同業のディスカバリーと経営統合し、現在はワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery、ティッカー:WBD)の事業となっています。
ワーナーメディア部門には、広告事業のXandrも含まれています。収益に占める割合は僅かでしたが、かつては一つの部門として、業績が発表されていました。こちらの事業も2022年6月にMicrosoftに売却されています。
ラテンアメリカ
メキシコでの携帯電話事業及び、南アメリカ地域での有料テレビサービス(Vrio)を提供する事業です。簡単にいうと、国外事業になります。
ただし、2021年11月にVrio事業を売却しています。
コミュニケーションズ部門の収益(2021年)

アメリカでの携帯電話事業などで構成されるモビリティが3分の2の割合を占めています。
2021年の収益は前年比で+7.8%、営業利益率は29.8%です(ただし、営業利益率は19年には31.4%、20年には30.8%でしたから、その割合は落ち込んではいることになります)。
収益が増加した背景には、主力となる携帯電話契約数(ポストペイド、後払い方式)が伸びていることが挙げられます。2021年の契約数は約6,726万件で、加入件数は319万件の純増となっています。
ポストペイド契約純増数と解約率の推移

携帯電話だけでなく、タブレットやウェアラブル端末なども含めたポストペイド契約は2018、19年と純減でしたが、2020年には純増に転じ、21年には448万件の純増を記録するなど、伸びが加速しています。解約率も1%を切ってきました(その分、Verizonの契約が削られているような気もしますが💧)。
アメリカの携帯電話市場は大手3社(Verizon、T-Mobile、AT&T)の寡占市場ですが、競争は激しくなっています。
AT&Tは、ユーザーのニーズに合致したさまざまなプランを提供することで、ユーザーを惹きつけ、解約率を下げようと努力しています。例えば、ポストペイドのスマートフォン契約者は、割引料金で複数のデバイスに通信サービスを提供するプランを利用しています。このようなプランの加入者は継続率が高くなっているようです。
ビジネス・ワイヤラインは収益の21%を占めますが、前年比では4.6%の減少、営業利益率も16.7%とモビリティ部門と比較して弱さが目立ちます。もっとも、レガシー(旧来)の事業部門なのであまり気にする必要はないかと思います。
コンシューマー・ワイヤラインは収益の11%を占めます。こちらにも家庭向けの旧来の音声通信サービスが含まれますが、収益の7割以上はブロードバンド(高速大容量のインターネット接続)によるものです。ブロードバンドの収益は前年比で6.5%の成長、光ファイバーの契約者数は年100万件を超える純増となっています。
EPS、BPS、ROE

BPS(1株あたり純資産)が順調に成長している反面、EPS(1株あたり利益)はあまり伸びていません。一時的な要因を除いたAdjusted EPSの5年成長率は+2.8%にとどまります。
米国企業にしては珍しく自社株買いも少なく、基本的には配当で株主に還元する方針を採っています。
BPSは増えていることからもわかるように、株主資本も増えてはいるのですが、一方で、AT&Tの長期債務は、2021年現在、1,500億ドルを超えており、世界有数の債務を抱えている企業となっています。
営業CFは安定的であるので、さほど心配はいりませんが、早めの債務の圧縮が望まれるところです。
キャッシュフロー(CF)

電気通信事業ゆえ、インフラを維持するためなどの設備投資が毎年150〜200億ドル程度発生していますが、キャッシュフローは非常に安定しています。
国内の携帯電話事業最大手であるNTTドコモは、年間約6,000億円程度を設備投資に回しているとのことですが、国土の広いアメリカだけあって、AT&Tが回している額はその3倍近くにもなります。
営業CFマージン(営業CF/収益)も20%台で安定的な推移でおり、ビジネスモデルは安定していることが分かるかと思います。
もっとも、キャッシュフローについては、2022年第2四半期の決算で、高インフレ下における消費者の支払い遅延を理由として、フリーキャッシュフローの予想を140億ドルに引き下げています。フリーキャッシュフローの水準は配当支払いにも直結するため、その動向を見守りたいです。
AT&Tの配当

1985年以降増配が続いていたのですが、21年にワーナーメディアを分離して、ディスカバリーと合併させることを発表した際に、減配も発表しています(初めはメディア事業のスピンオフということで、投資家も好意的でしたが、プレスリリースの中に新しい配当ポリシーがフリーキャッシュフローの40~43%程度と公表されたことで、現在の配当水準が維持されないことが明らかになり、一転して大きく売られました)。
それまでの配当は四半期あたり$0.52でしたが、$0.2775になるので、割合にして46.7%の減配になります。
Adjusted EPSで見た配当性向自体は60%台で安定して推移していたのですが…
アメリカの投資家でもAT&Tは高配当の代表格として人気がありましたので、減配を発表したときの失望は凄まじく、株式は大きく売られ、今日に至るまで下落トレンドを描いています💧
AT&Tのトータルリターン
VS S&P 500(SPY)(1993/1〜)

2010年代中盤以降の株価上昇には全くついていくことができず、S&P 500には大きく水をあけられてしまっていますね。
まとめ・所感
- 携帯電話事業の業績は安定的。競争が激化する中でも、契約数を伸ばしているのは明るい材料。ただし、高インフレによるフリーキャッシュフローの打撃については、注意する必要
- PERは7倍台で割安感強い。買収の失敗、減配が投資家の信頼を失わせており、株式市場からは半ば見放されている。
私はT(AT&T)を個別株で保有しています。
2021年に減配を発表して以降、株価は25%近く下がっています(結果論にはなってしまいますが、2021年の減配タイミングで売るのがベストでしたね)。それでも私自身の投資でいえば、配当分を考慮すれば、年換算で-2%程度のリターンとなっていて、そこまで悲惨ではありません。
私は元々、電気通信とメディア事業の融合という部分を魅力に感じ、AT&Tを保有していました。結局うまくいかずにメディア事業を切り離し、さらには減配…数多くの投資家が失望するのも無理はないと思います。
それでも、電気通信事業はキャッシュフローも安定していますし、人々の生活に欠かせないビジネスです。確かにAT&Tの経営陣が株主価値を破壊してきたことは事実ですが、現在の株価はあまりにも安すぎると考えています(というか通信サービス株全般売られすぎですね💧)。
私はNISA枠で保有しているため現状買い増しは考えていませんが、ワーナーメディアのスピンオフでAT&Tへの投資額が下がっていることもあるので、20ドル以下の水準で低迷するようなら、2023年のNISA枠で少し買いたいですね。
AT&Tのライバル、アメリカ国内の契約数ではトップを走るVerizon(ベライゾン)も分析記事を書いています。最近は少し苦しいですね。
